あなたの小説はなぜラストまで書けないのか。あるいは読まれないのか。

文章が読みにくい、冒頭しか読まれない、最後まで書けない、という初心者が陥りがちな悩みを少しだけアドバイスします。

伏線を使いこなせてこそ、小説書き。

・その4

伏線がない。そもそも伏線がどれなのか分からない。

 

なんとか小説を最後まで書き切ることができたけど、次はさっぱり面白くないと言われてしまって、凹む初心者さん。

厳しいようですが、いきなり面白い作品を書けるのはほんの一握りの人だけです。あとの才能のない私含める物書きは、試行錯誤しないと次の段階へ進めません。

 

で、いろいろ読んで気がついたことが。

ストーリーそのもののアイデアは奇抜でなくても、うまく構成を考えれば面白くなるのではないか、と。

少しひねって情報を小出しにしつつ隠すことで謎を作り、読み手の興味をひくのです。ミステリーが面白いのは、謎がどう解けるのかを期待しながら読むため。だから、そうじゃないジャンルでもその手法を使えば、飽きずに読めるのではないかと思ったのです。

だから冒頭で一気に説明や、中途で怒涛の解説をするのは読み手をしらけさせてしまうのです。

 

謎を小出しにするには、できるだけ説明文章を抑える必要があります。

主語が私や俺の一人称小説でよくあるのですが、冒頭

『俺、勇者。16歳になったばかりなんだ。特技は斧と攻撃魔法さ』

という、自己紹介文章。

たしかに意味は伝わりますが、小説ではなくただの情報伝達になってしまいます。

 

それを回避するには、まず勇者自身が見聞きしたこと、その場で感じたことを書きましょう。シーンに動きを持たせるのです。

冒頭でいきなり長い説明をせず、勇者の年齢も特技も伏せたまま、物語のシーンを描写していきます。

 

【例3】

 勇者太郎はどこまでも続く道を駆けていた。彼は焦っていた。日暮れが迫ってきたからだ。

 太陽が沈んで暗闇が訪れると、翼悪魔が飛び交う。コウモリのような姿をした魔物たちは、道行く旅人たちの血を容赦なく吸うといわれていた。

 息を切らした太郎は、遠くに宿の明かりが見えて、ほっとした。

 もうすぐ温かいスープとパンにありつける。路銀を切らしてしまい、この三日間、ほとんど食べていなかった。とても待ち遠しくてたまらない。

 その気の緩みが良くなかったのだろう。太郎の目の前に、翼悪魔が飛んできた。ギギギ、と魔物特有の鈍い威嚇が聞こえる。

 魔物が紫色の翼を広げたとたん、皮膚を切り裂きそうなほどの鋭い疾風が太郎を襲う。

 太郎は呪文を唱えた。生まれて十六年。実戦で初めて使う防御魔法だ。

「シールド!」

 

……ふだん、ファンタジー書かないんでかなり適当な例文ですが、一応、描写が入っているということでご理解ください。

文章編に関する例文もあるので、一緒に解説します。

 

以下解説付き

 

 勇者太郎はどこまでも続く道を駆けていた。彼は焦っていた。日暮れが迫ってきたからだ。

 ↑

(まず主人公の存在と、彼のいる場所と時間帯を描写。そしてなぜ走っているのかをごく簡単に説明します)

 

 太陽が沈んで暗闇が訪れると、翼悪魔が飛び交う。コウモリのような姿をした魔物たちは、道行く旅人たちの血を容赦なく吸うといわれていた。

(さらに焦っている理由を説明。説明を小出しにすることで、読み手に状況を伝えやすくします。これを書かないと、太郎が走る理由づけが弱くなってしまいます)

 

 息を切らした太郎は、遠くに宿の明かりが見えて、ほっとした。

 もうすぐ温かいスープとパンにありつける。路銀を切らしてしまい、この三日間、ほとんど食べていなかった。とても待ち遠しくてたまらない。

(太郎視点の描写。空腹を強調することで、太郎を人間らしくさせます。いったん、安心させて、次の戦いのシーンとの落差を作ることで、話に強弱をつけます)

 

 その気の緩みが良くなかったのだろう。太郎の目の前に、翼悪魔が飛んできた。ギギギ、と魔物特有の鈍い威嚇が聞こえる。

 魔物が紫色の翼を広げたとたん、皮膚を切り裂きそうなほどの鋭い疾風が太郎を襲う。

 太郎は呪文を唱えた。生まれて十六年。実践で初めて使う防御魔法だ。

「シールド!」

(ここでようやく太郎の年齢と、特技が呪文であること、しかし、初心者だからうまくいくか分からないことで、緊迫感を演出させる描写をします。

それまで読者は太郎のことを知らず、いったいどんな人物なのだろう、と気になりながら読んだはず。これが小さな伏線です。大きな伏線は、これをエピソード単位で構築していきます。さらに多くすると、作品単位に跨がります。

作品単位の伏線の場合、だいたいがテーマになります。弱かった主人公が、逆境に立ち向かって敵を倒す、といったような。

蛇足ですが、『生まれて十六年。』が体言止めです。強調したいので使いました)

 

冒頭で自己紹介せず、描写を入れながら、主人公がどんな人物なのかを書いていきましょう。描写シーンに強弱をつけるのがポイント。平坦だと、ただの説明で終わってしまいます。

小説の執筆はこの作業のくり返しです。

 

あと、段落の冒頭には空白を一文字入れましょう。文章編では入れてませんが、これがないと、文章が詰まって読みづらいです。



・後日補足

緻密な描写について。

 

指南本を読んで、描写が多ければ多いほどいいのだろうと勘違いしてしまい、やたらと人物や背景をこまごま書くのはやめましょう。

あまり緻密に書きすぎると、読み手に負担がかかってしまい、脱落してしまう可能性があります。

ネット小説やライトノベルが流行する以前なら問題ありませんでしたが、今は商業文芸作品も文章がライト寄りのものが多いです。そうしないと、読まれないからです。

だからみっちり描写された海外翻訳小説が、数年前から出版されにくくなったのが残念でもありますが……。(私は翻訳モノが好きなので、がっかりしてます)



・さらに補足

作品単位の伏線の失敗例。

 

例として、ミステリー。

いよいよ犯人がだれなのかを、探偵が推理で明かします。

そのとき挙がった名前に読者はびっくり。だって、そんな人物いたっけ? と首をかしげることになるのですから。

その犯人がいつ登場したのか。冒頭あたりに少しだけ登場した、Aさん。読みなおしてみると、たしかに犯人しか知り得ないセリフを話しているけど、そのあとさっぱり登場せず。

しかし作中の脇役たちは、大絶賛。探偵さん、さすが!

……最後まで読んだのにと、がっかりする読者さん。

つまり、伏線を張ってはいるのですが、その存在感があまりに希薄なものだから、伏線になっていない。

だから、大きな伏線を貼るときは、しっかり書きましょう。手を抜いて省略してしまうと、唐突な展開で終わってしまいます。