主語と助詞、会話の間の描写、セリフで説明。
【例2】
一年後、太郎は熊との戦いに勝利して、父親から旅に出ることを許可された。
太郎は母が作った弁当を持って旅に出た。
太郎は疲れてきたから、近くにある楡の木陰でしばらく休憩をとることにした。
太郎はうとうとして目を閉じたが、眩しくて眠れなかった。
太郎が目を開けると、きらきら光るエルフが飛んでいた。
太郎はこんなところにエルフがいるなんてと、とてもびっくりした。
エルフは言った。
「勇者太郎さん、家来の犬を助けてください。お礼に金の槍をあげますから」
「きれいなエルフさんだ!すぐに俺が助けます!」
「ありがとう勇者太郎さん。さあ行きましょう。魔王は邪悪島にいます」
太郎はエルフと一緒に旅を再開した。
これも即興で書いた代物です。変なのはあくまでも例文ということで……。
・その5
文章がほとんど主語+「は」で始まる。
まるで英語の教科書を直訳したかのような文章の例文。日本語は英語と違い、主語を省略しても表現できます。
何度、太郎は、と出せば気がすむんだ、と読み手がイライラしそう。
しかし初心者はどれぐらい主語を省いてよいのか、その加減がわからないためについついやってしまいがち。例は極端ですが、実際、何度も見たことがあります。
解決策としては書いたあと、二度目以降の主語を削ってみて、それで意味が通じるか読み直すことです。
慣れてきたら、主語を冒頭だけでなく、文の中途や最後に持ってくることも可能。ただし、最後バージョンは高度なので、おすすめしません。
・その6
文末が全て過去形。もしくは現在形。あるいは体言止め。
例文全て、『~た。』で終わっています。読んでみたらわかりますが、ずーっと単調なリズムになるあまり、だんだん読むのが苦痛になってきます。
いや、苦痛ってほどじゃない?
でも明らかに頭に入りずらいというか、お経のようで退屈になりませんか? 音楽でもそうですが、変化のないリズムは人をうんざりさせます。
これもよく見かけるパターンです。
解決策は、過去形⇒現在形⇒ときおり体言止め。といった具合に、変化をもたらすことです。
ちなみに体言止めは名詞や代名詞で終わるため、小説では強調したいシーン以外で使わないのが無難です。ありすぎると不自然だからです。ここぞ、というときだけ使用してください。
(体言止めの意味がわからないときは、ネット検索が便利です。新聞に多く使われています)
・その7
セリフで説明する。
「きれいなエルフさんだ!」
例文で太郎はそう言ってますが、初対面のしかも人外にいきなり「きれいですね」と言えますか?
普通は警戒されてしまいます。女性とはそういうものです。
(そこで言える、と答えてしまうと、萌え系ラノベに影響されすぎているとお考えください……。)
それとは別に、「きれい」という曖昧な表現をできれば、描写で表現して欲しいです。きれい、と一言で説明しても、具体的なイメージが浮かびづらいです。
(これも問題ない、と思ったらテンプレ系ラノベに……と以下同文)
一度きりのチョイ役なら問題ないですが、エルフはこれから一緒に旅をする仲間。イメージしやすいようにせめて服装や、金髪なのか黒髪なのかぐらいは書いて欲しいです。
・その8
会話と会話の間の描写が一切ない。
また書きますが、これもよく見かけるパターン。一番、といっても過言ではないぐらい。
『エルフは言った。
「勇者太郎さん、家来の犬を助けてください。お礼に金の槍をあげますから」
「きれいなエルフさんだ!すぐに俺が助けます!」
「ありがとう勇者太郎さん。さあ行きましょう。魔王は邪悪島にいます」
太郎はエルフと一緒に旅を再開した。』
例文の一行目『エルフは言った』から旅を再開するまでの間、まったく説明どころか描写すらなし。
会話だけですまそうとするため、エルフのセリフが説明口調になってしまいます。
主人公は太郎なのだから、なぜエルフの願いに同意したのかを書いて欲しい。初対面の人外がきれいだから、という理由だけでほいほいついていく主人公って共感できますか?
さまざまな事情が太郎にあるにせよ、読み手には全く伝わってきません。
なぜ会話だけですまそうとする書き手が多いのでしょうか?
答えは単純。「ラクだから」。
残念ながらこれもマンガやラノベしか読まなかったら、どんな描写を入れて良いのか理解できません。そもそも基礎がないから、難しく感じるのです。
なので、私がああだこうだ、と例文を入れても、基礎がないとピンとこないと思います。その時は理解しても、また別のシーンになるとどう書いていいのかわからないはず。
だからもし、どうしていいのか分からなければ、職業作家が書いた一般文芸等の読書をおすすめします。
ついでに、文章中途にある『!』のあとは、空白を一文字入れましょう。
後日追記。
やっぱりサンプルがないのは不親切すぎると思って、簡単に書いておきます。
「勇者太郎さん、家来の犬を助けてください。お礼に金の槍をあげますから」
(きれいなエルフさんだ!)
太郎は目の前にいる妖精の光り輝く金の髪と、透き通るような緑の瞳に心を奪われる。薄くて白い絹のロープから、うっすらと桃色の肌が透けて見えた。
けれどこんなきれいな女の子が、どうして自分なんかに助けを求めてきたのだろう。しかも何も話していないのに、勇者だと知っている。
何か裏がありそうだ。
断ってもよかったが、太郎はきれいな妖精のことをもっと知りたくなって、つい安請け合いの返事をしてしまう。
「すぐに俺が助けます!」
彼女が怪しい行動をしないか、警戒しながら旅を続けることにした。
会話と会話の間を補完するように、太郎の心理描写を入れてみました。
・その9
冒頭でがっつり説明。
例文には出しませんでしたが、物語の初めに世界観を一気に出す作品は多いです。とくに異世界ファンタジー小説にありがち。
最初に国土の大きさ、国名、人口、政治、軍事、農産物の種類、王様の名前、隣国との関係、ずらずらと並ぶ見慣れないカタカナ地名……。
それらをいきなり最初に出されても、読む方はしんどいです。ここで断念する読み手が多いはず。
だから冒頭しか読まれないのです。
解決策としては、まずは主人公の描写から始めることです。つぎに行動、周囲の人々との関係、ときおりセリフを挟み、この世界がどのような状況なのかを小出しにします。
最近のラノベはテンプレート化しているため、それらの説明が一切ない場合も多いです。だれもが知っているギルドや武器屋といったものを出せば、説明や描写をしなくても、読み手が理解してくれるからです。
だからこれはあくまでも、幅広く自作の小説を読んで欲しい、と思った場合のアドバイスです。